新型コロナ感染確認者の発生状況について
第五話
【マスクは“顔パンツ”ではありません】
今さらなぜマスクを話題に?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。それは昨今、マスクの着用が信仰のようになっているように見受けられるからです。マスクはどんな場面でも必ずしてないといけない、マスクをつけていれば安心・免罪符になる、マスクをしていない者は“人でなし”、といった風潮が広まりつつあるように思います。今まで数多の記事があるので却って本来の効用と限界が忘れられてきていないでしょうか。
タイトルで“顔パンツ”という表現を出したのは、今の社会人はマスクをパンツのようにいつも身につけていないといけない物と捉えている様子を表そうとしたためです(もちろん例外の方もいらっしゃるでしょうけれど)。
マスクは何のためにつけているのでしょう。それは言うまでもなく、マスク着用により自分を守り、他人に感染を広げないように、という趣旨です。
新型コロナも飛沫感染だけでなくエアロゾル(空気中にある細かい粒子)感染もおこることが言われるようになり、マスクの使用が広がりました。なお、エアロゾルの小さいもの(5μm以下:(1μmは1000分の1mm))では、空気感染を起こす可能性があります。ですので今回の新型コロナは飛沫感染と空気感染との可能性を考えて対処されてきました。
改めて、空気感染力の強かった新型インフルエンザが流行したときの「新型インフルエンザ専門家会議(H20年9月22日)」の提言を要約します(以後出典として*と表示)。(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0922-7b.pdf)
- 1. 症状のある人が咳・くしゃみで飛沫感染をさせないよう不織布制マスクの着用を推奨(咳エチケット)
- 2. 不織布製マスクで環境中のウイルスを含んだ飛沫はある程度補足される。しかし健康な人がこのマスクの着用で飛沫を完全に吸い込まないようにすることはできない。よって、咳・発熱等のある人に(2m以内に)近づかない、流行時は人混みに行かない、手指の保清など感染予防に努める
- 3. 不織布製マスクのほどんどは外国製なので流行前に備蓄しておく
この提言では、「新型インフルエンザの国内流行時に国民が日常生活においてマスクを使用する際の考え方を暫定的に示すもの」と謳われています。ここで“暫定的”とは、マスクの着用がどの程度の効果があるかは現時点では十分な科学的根拠が得られていないから、とされています。
もちろん従来言われてきたような限定的な効果については、最近の研究でも新たに確認されています。(nature medicine, doi.org/10.1038/s41591-020-0843-2, April, 4, 2020 https://www.nature.com/articles/s41591-020-0843-2)。この二重盲検対照比較研究では、医療用の不織布製マスク(サージカルマスク)に新型ではないコロナウイルスの飛沫とエアロゾル中の数を減少させたと報告されています。
じつはこのような研究では、きっちりとした状況、つまりマスクを正しく着用し、使用期限をまもる、といったようなことがなされています。つまり、このような研究は理想的条件を設けて行われます。なお、布(ガーゼ)のマスクについては、臨床的研究でふれられていません。
それではこのような研究の成果が必ずしも日常に当てはめられないのはなぜでしょうか。
実は、マスクは素材、着用の仕方や、どのようなマスクをどのくらいの期間、どのように使うか、など人により千差万別なので、マスクのスペック通りの効果の予想ができません。したがって明快な根拠と効果を期待できる政策とはなりにくいのです。
マスクが世界的に品薄の現状で、WHOはマスクを医療従事者優先にするために「感染者や看護者以外の一般市民のマスクの使用を推奨しない」と言い(3月30日)、アメリカCDC(疾病対策センター)は感染拡大防止のために「医療用ではない布マスク」の着用を推奨し始めました(4月3日)。マスクは下手に推奨すると“買いだめ”、“誤った安心感”、そして“誤用のリスク”があるので、各国で対応が違っていました。
では、マスクにはどのような効用と限界があるのでしょうか。以下、先ほどの「新型インフルエンザ専門家会議(H20年9月22日)」の提言に従って見てまいります。
【マスクの種類】
●マスクの効能と限界
マスクのフィルター部分で咳・くしゃみにより飛散する、ウイルスを含んだ飛沫を捉えます。ウイルスは小さい(0.1μm)ので、気道の分泌物の飛沫(5μmほど)に乗って体外に飛散します。この大きさのものをものを捉えることがもとめられています
●マスクの分類と性
マスクと言っても素材や形、着用の仕方、使用期間により効用が大きくことなります。ここでは日常を前提に話をしますので、産業用や、医療用の(空気感染性の強力な菌やウイルスに対応する)N95マスクのような特殊なものは省きます。
素材には大きく分けて不織布と布(ガーゼ)があります。医療用は不織布製です。市販品もほとんどは不織布製です。不織布マスクは3層のものが多く、真ん中の層の繊維が電気を帯びていてそれでウイルスを捉えます。詳細は省きます。
「布は環境中の飛沫を捕捉するには十分な効果が得られない。咳エチケットとして使用することは可能であるが、フィルターの性能を考えると、前述した不織布製マスクがない場合に使用を検討する。」(*)とあります。
●マスクは密着していることが求められますが完璧にはできません。仕方ありません。
●使用者 咳・くしゃみのある人の場合、「着用することで飛沫の飛散をふせぐ(咳エチケット)。健康な人の場合、ある程度は接触感染を減らすことが期待される」(*)とあります。
【不織布マスクの取り扱い】
●「不織布マスクは、原則使い捨てであり、一日一枚程度の使用とする」(*)とあります。じつがこれは現状ではなかなか難しいし、環境負荷も考えるといかがなものかと思います。
そこでメーカーは推奨しませんが、苦肉の策として性能は落ちても洗濯するという選択肢があります。洗濯により、ウイルスを捉える真ん中の層の繊維の性能が多少(90%以上から70%ほどに)落ちるだけなので、元々40%ほどと言われている布マスクよりはよいかと思います。ふつうの洗濯用中性洗剤を、水を張った洗面器などで能書とおり濃度調整し、それからマスクを浸し、型崩れしないよう優しく押し洗いとすすぎとを3回ほど繰り返します。その後、キッチンペーパーなどに挟んで水分をとり、ふつうの洗濯物のように日に干して終わりです。なお乾燥器やアイロンは使わないようご注意ください
布マスクの洗濯も基本的には同じです。厚労省・経産省が共同して動画を配信しています(https://www.youtube.com/watch?v=AKNNZRRo74o)。とてもよくできているのでご興味のある方はご覧ください。
【家庭における備蓄について】
●「一つの目安として、不織布製マスクを、発症時の咳エチケット用に 7-10枚(罹患期間を 7-10 日と仮定)、健康な時の外出用に 16 枚(やむを得ず週に 2回外出すると仮定して 8 週間分)として、併せて一人あたり 20-25 枚程度備蓄することが考えられる」(*)とあります。このように備蓄していた人は多くないと思います。先述したように、洗濯してしのいでいきましょう。
結局、マスクは理想的条件で使い続けられるとは限らない(むしろ難しい)のです。お互いにマスクを着けているのを見て安心できるという心理効果も含めて、あくまでも限定的な効果であると割り切るのが現実的だと思います。少なくとも、エチケットとして、マスクをしていることはよいのですが、間違ってもマスクをしていない人を否定したり、それにより自分の心を乱したりすることのないようにしたいものです。要は、自分の身は自分の心身の力(抵抗力)で守るしかありません。
ここまでお読みいただきありがとうございます。