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オリンパスショック~第2のカネボウとなるのか(2011/11/29)

「オリンパス」―最近報道が下火にはなってきたとはいえ、この1カ月で最も注目を浴びた企業であることは間違いないだろう。しかし何が問題とされているのかについては、会計上の知識を多少必要とする分、いまいちピンとこないという方が多くいらっしゃるのではないだろうか。本題に入る前に事件の概要について軽く触れておこう。

事件が明るみになったのは、2011年10月14日に同社のイギリス人社長兼CEO(最高経営責任者)のマイケル・ウッドフォード氏が、在任わずか6カ月にして電撃解任されたことに端を発する。その際、ウッドフォード氏は「過去に同社が行ったM&Aについて不透明な取引があると、第三者機関により報告されたため、会長の菊川氏と副社長の森久氏に引責を迫ったところ、逆に解任された」旨の告発を行った。ウッドフォード氏の解任発表および同氏の告発の報道直後からオリンパス株は急落、10月20日の終値は1,321円となり13日の終値2,482円から1週間で半値近くまで値下がりした。

なぜ株価がこれほどまで急落したのか。株価は簡単に言えば売り手と買い手の提示価格が一致するところで決定される。買い手は通常、会社が自ら作成する有価証券報告書をはじめとする様々な財務情報をもとに会社の価値を推し測り、「いくらなら買おう」という判断で購入の意思決定をする。しかし会社が嘘の財務情報を提供していた(粉飾)となれば、それをもとに決定されていた株価も「嘘」ということとなる。今回は最悪上場廃止によって、オリンパス株が紙くずになる恐れまで出てきたため、それまでの値段では買い手がつかず、値崩れを起こしたのである。これによりオリンパス株主は大きな損害を被ってしまった。

今回のような事態を防ぐため、オリンパスのような上場企業は、作成した財務諸表を、公認会計士の集団である監査法人に監査をしてもらい、「この財務諸表は適正だ」という保証を得る事が法律で義務付けられている。そのため嘘をついていたオリンパスのみでなく、それを「適正だ」と太鼓判を押した監査法人にも責任があるのではないかが、今大変問題となっている。

オリンパスは一体何をしようとしたのか。簡潔に書けば、「有価証券の損失処理を先送りしたあげく、M&A取引を利用して解消しようとした」。これだけ書くと、なんのこっちゃとなるのでもう少し噛み砕いて書く。オリンパスに限らず多くの企業は、バブル時代に、大きな利益が得られる財テクに熱中し、バブルの崩壊によって多額の損失を被ることになる。しかしこれを正直に「財テクで失敗しました」と公表すれば当然株価は下落し、経営者もその責任を問われることになる。そのためオリンパスの経営者は何とかこれを隠そうとして、「飛ばし」という手法を用いた。「飛ばし」とは、息のかかった会社に、期末日直前に簿価(購入時の金額)で売却し、期末日直後に同じ金額で買い戻すことである。これを行うことで、損益計算書には有価証券の評価損も売却損も計上されないため、見た目には財テクは失敗していないように見せかけることができる。当然これは適正な財務諸表の開示とは言えないため粉飾であるが、何とこれを90年代からずっと行ってきており、監査法人もこの点について指摘していない。

また、いつまでもこの損失を先送りするわけにはいかないと行ったのが、今回問題となったM&A取引である。M&A(合併と買収)は、買収先の企業の値段を適正に見積もった上で行うものである。しかし今回は、売上合計20億に満たない零細企業3社を、総額700億円で買収を行ったり、イギリスの医療機器メーカージャイラスの買収にあたって、コンサルタント会社に700億円もの報酬を支払ったりしている。ちなみにそのコンサル会社は、買収の3か月後に消滅した、いわゆるペーパーカンパニーときている。企業というものは通常、所有する資産の価値以上の収益をもたらすものであるから、企業の買い手はその分多めにお金を出す。そして買い手は多めに出した分を「のれん」として会計処理する。オリンパスはこのありえない「のれん」について損失を計上し、捻出したお金を有価証券の損失の穴埋めに使うことで、先に述べた有価証券がらみでは損失を出してないふりをし、経営者は責任を逃れようとしたのである。

では、監査法人にはどのような責任があるのだろうか。実はオリンパスを担当する監査法人は2009年3月期に交代している。2009年3月期までは現在のあずさ監査法人、以後現在に至るまで新日本有限責任監査法人が担当している。当然、ことがことだけに、両者とも自らの身の潔白を主張している。新日本は現任監査人として厳しく調べられるのは当然として、前任監査人であるあずさも「不透明なM&Aの会計処理について指摘し、その後監査契約を解消された」と主張するが、有価証券の損失の先送りを見逃していたことについては言い逃れできず、予断を許さない状況となっている。

あずさも新日本も、日本を代表する監査法人である。両者は日本の主だった企業の多くを監査しており、そのクライアントはNTT、パナソニック、新日鉄、日立、キャノン…と枚挙に暇がない。どちらにも非があるとすればオリンパス以外の財務諸表に対しても国内外からの不信も強まり、ひいては日本の証券市場全体に対する不信につながりかねない。過去にカネボウの粉飾が発覚したことで、中央青山という大手監査法人が解散に追い込まれているが、今回は対応を誤ればそれを上回る深刻な事態に発展することもありうる。少々拙い説明ではあったが、本問題の考察にあたり、少しでも参考になれば幸いである。

PJN編集部